『お前は馬鹿だ。』

黄金の瞳を物憂げに伏せながら、一匹の竜は呟いた。

心の中で呟いた。人の頭など軽く数人分呑み込んでしまえそうな巨大な(あぎと)

青銅で鎧った口元から、しかし猛き牙は姿を見せず。

 

『お前は馬鹿だ。

 確かに、爪牙を抜かれた虎ならもはや無力だろう。

 だが、竜には嵐をおこす力がある。奔雷を生む力がある。

 私にはお前を殺す力がある。』

そう、

抜かれた牙さえいずれ生える。ただ淡々と事実を紡ぐ。

ふと、閉じられた顎に、小さな小さな手が触れた。

青銅の鱗、一枚分ほどもない手。白く、優しく、あまりに柔らか。

それが、冷えた鱗の上を優しく撫でた。

 

『――――――・・・お前は、馬鹿だ。』

黄金の瞳を、ついに閉じて。

一匹の竜は、あまりに小さな手に、その頬をすりよせた。

初めて得た温もりを確かめるように。

 

049:竜の牙